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チック症と漢方薬


チックとは、チック症(トゥレット症候群)の諸症状について

 チック症の定義としては「ある限局した一定の筋肉群に、突発的、無目的に、しかも不随意に急速な運動や発声が起きるもの」とされます。やや表現が専門的で分かりにくい部分もありますが、より簡潔に表現するならば「ある決まった筋肉を、突然、特に目的も無く、しかも自分自身の意思とは関係なく突然、動かしたり(動いたり)、声をあげる症状」といえます。より具体的に症状を整理しますと。チックの症状は「運動性チック」と「音声チック」の2種類に大別することが出来ます。


運動性チックの特徴的症状は

 まばたき、鼻をピクピクさせる、口をゆがめる、首や頭をねじる、肩をすぼめる、手を振る、手先を傷つける、手遊びをする、そしてこれらの運動を繰り返し行うことなどが挙げられます。他にも、飛び跳ね、足けりなど症状が全身的な運動に及ぶ場合もありますが、基本的には上半身に症状が集中します。


音声チックの特徴的症状は

 咳払い、短い叫び声、甲高い奇声、そして汚い言葉(汚語)や性的な言葉を繰り返すことなどが挙げられます。


チック症のもっとも難しい点は

 これらの反復症状を本人が認識していても止めることが出来ないことです。したがって、周りの人間が注意したりしても抑制が困難であり、本人も徐々に傷つき、その後の対人関係に影響が出てしまう恐れもあります。


チック症は多くの場合

 乳幼児から学童期に多くみられ、平均的には7歳前後の男児に多いのが特徴とされます。多くの場合は成長とともにチック症状は消失しますが、しばしば青年期から成人期までいくつかの症状が継続する場合もあります。ちなみに表題にもありますトゥレット症候群とは、これらチック症状が慢性的な経過をたどるものを指します。この名は19世紀のフランス人医師Touretteに由来しており、しばしばトゥーレット症候群、トゥーレット障害、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群、トレット症候群などとも呼ばれますが、同じものを指しています。
 つまり簡潔にはチックは上記のような特徴的な症状を表し、トゥレット症候群はそれら一連のチック症状を慢性的に発現する病態を指します。このホームページでは混乱を避けるために基本的にチック症という言葉を用いますが、ほぼトゥレット症候群と同じ意味として用いてゆきます。


チック症(トゥレット症候群)の原因

 チック症の詳しい原因は西洋医学的にはまだ完全に解明されていないというのが現状です。しかしながら、ハロペリドール(主な商品名はセレネースやリントン)などの一部の向精神薬が有効ということからドパミン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、そしてセロトニンなどの神経伝達物質が深く関わっていることが示唆されています。過去には母親や身近な人々との健全な関係が築けなかったために起こると考えられていましたが、現在ではむしろ上記のような神経伝達物質のバランスの偏りや脳の機能的障害、遺伝的要因が主な原因候補として検討されています。しかし、チック症はストレスが加わったり、緊張が高まったりする場面で悪化することから母親などがチック症に対して過度の干渉を行うと逆効果になる可能性があるのも事実です。


チック症(トゥレット症候群)の西洋医学的治療法

 原因の項目で述べたとおり、明確な原因が不明なために特効的な西洋医学的治療法は確立されてはいません。一般的にはすぐに薬物療法に入るのではなく、行動療法や心理療法を行い、改善が認められない場合にはハロペリドールなどの向精神薬が用いられます。これは向精神薬には思考力低下、眠気、筋肉の硬直、視力低下などの副作用も存在するからです。
 本人に対する治療以外では、本人に過剰なストレスを与えないために周囲の人々に対してチック症の正しい理解や接し方を促すことが非常に重要になってきます。基本的にはチック症に干渉せず、普段どおりの日常生活を行うことがその方針となります。


チック症(トゥレット症候群)と合併症

 しばしばチック症と注意欠陥・多動性障害(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder )や学習障害(LD:Learning Disorders)が合併することが指摘されていますが、必ずしも合併するわけでもありません。これらの点は今後の研究により明らかになるかもしれません。


漢方医学におけるチック症(トゥレット症候群)

 漢方医学的にこれらチック症は肝の働きの失調と捉えます。
 この肝は西洋医学的な肝臓の機能、例えば生存に必須な代謝、薬物の解毒、糖質の備蓄などを指すものではなく、あくまでも漢方医学上の概念です。
 一方で西洋医学的な肝臓と漢方医学上の肝の共通点としては、ともに非常に多岐にわたる機能を有している点です。
 漢方医学における肝の主な役割は気の円滑な運行を助け、筋肉の動きや眼の機能を調節し、爪の状態を整え、怒りの感情を司ることなどが挙げられます。さらに肝は血(けつ)を蓄える働きも持っており、この点は珍しく西洋医学における肝臓の役割と同じ点です。
 上記で登場した気とは生命活動を行う上で欠かせない根本的なエネルギーを指します。気の働きは生命維持に必要な燃料のような存在であり、精神活動の維持や、物質代謝に用いられます。さらに血は気の力によって全身を巡り、各臓器(漢方医学では心、脾、肺、腎、そして肝の五臓)の機能維持に必要となり、それ自体は肝に蓄えられています。
 本題のチック症においては主に肝の気の巡りを助ける働きと、筋肉や眼の機能調節の役割が「鍵」になります。
 何らかの影響、多くの場合は精神的なストレスによって肝はダメージを受けやすい臓器です。長時間、肝がダメージを受け続けると徐々に肝に蓄えられていた血が減少して、肝の機能に障害が出始めます。つまり筋肉や眼の機能調節が失われることによって運動チックで特有のまばたき、鼻をピクピクさせる、口をすぼめる、首や頭をねじる、肩をすぼめるなどの、本来は起こらない筋肉の意識では支配できない運動が現れると考えられます。さらにチック症状に必ず現れる特徴的なまばたきは肝が筋肉と眼の両方の機能調節に関わっていることが特徴的に現れた結果といえます。
 これら以外にも肝は気の円滑な運行を助けるコントロールタワーの働きを担っていることから、この働きも上手く行かなくなると感情のコントロールも上手くできなくなります。結果的に怒りやすく、常にイライラし、落ち着かない状態、漢方医学では気滞(きたい)と呼ばれる状態に陥ります。気滞における他の症状としては抑うつ傾向、喉や胸の詰まった感覚、腹部膨満感、さらにこれらの諸症状がコロコロと変わる特徴があります。やはりチック症でみられる独特な咳払いは気滞の喉の詰まり感に関係している可能性があります。さらに音声チックにおける汚語などは感情のコントロールを失調した結果、現れている可能性もあるのです。
 一概にすべてのチック症が肝の働きと、その機能失調のみで説明できない部分もありますが、大きな要因であることは確かといえるでしょう。


チック症(トゥレット症候群)の基本的な漢方薬治療

 上記の漢方医学におけるチック症の原因や症状に対応する漢方薬が用いられます。基本的には肝が失った血を補い、気滞を取り除くことが重要となります。
 失った血を補うためには当帰、芍薬、川芎、地黄などの生薬が含まれる漢方薬が用いられます。さらに気の巡りを助ける厚朴、紫蘇葉、香附子、半夏、柴胡、竜骨、牡蠣などの生薬も用いられるでしょう。他にも芍薬、枳実は筋肉の過度な緊張を和らげることからしばしばチック症に対応した漢方薬に含まれます。
 一方で、チック症の症状も千差万別、十人十色であり、こういった基本的なチック症を緩和する漢方薬以外にその方の症状によって様々な微調整が加えられます。
 つまりチック症を治す漢方薬が存在するのではなく、チック症を発症している人間の肝や気血のバランスを整える漢方薬が存在すると考えていただければと思います。当然、これら以外にバランスが崩れている部分があればそれらを整える漢方薬が用いられます。


母子同服

 上記の「チック症(トゥレット症候群)の原因」の項目で述べたとおり、チック症の原因は決して母子関係が上手く築けなかったためとは考えられていません。しかしながら、お母さんがお子さんの症状を心配するあまりに、ついついチック症状を注意したり、矯正したりしてしまうことは無理もありません。むしろこれは非常に自然な考えであり行動であるとさえ感じます。
 しかしながら、その行動は決して良い結果を生まないことは西洋医学的にも漢方医学的にも共通して指摘されています。
 中国明時代の保嬰撮要(ほえいさつよう)という小児科領域の古典に漢方処方が収載されています。この漢方薬は肝の高ぶりを抑制することで筋肉の痙攣、イライラ感、そしてチック症にも用いられます。この漢方処方は子供だけではなく、その子の母親も一緒に服用するよう記載されています。これを母子同服(ぼしどうふく)と呼びます。この目的は子供の症状を心配し、時には感情を乱してしまうことで母親も肝を痛め、その母親の悪影響を子供が受けてしまう負のサイクルを断ち切るためといわれています。このように漢方薬が適応となるお子さんの治療は非常にデリケートなものであったことが古代の古文書にも記載されているのです。したがってチック症の治療はお子さん本人と同じくらい周りの人間の助けが重要になるのです。


チック症(トゥレット症候群)に対する日常の注意点

 上記で述べたとおり、チック症状を発現している子供に対して過剰に注意したり、矯正したりすることはかえって症状を悪化させる危険性があります。
 注意した場合、短時間の間は症状を抑えられることもありますが、それは根本的な解決には結び付かず、中長期的にはデメリットの方が上回ることになります。特に日常生活に問題ない程度であれば放置しても問題は無いとされています。もしストレス源がはっきりしているようならばそれらを取り除くことに専念すべきです。しかしながら、チック症の明確な原因が不明な場合が多いのも事実ですので、日常生活においては過剰な干渉を避けることが優先されます。
 漢方医学的に肝は春にそのバランスを崩しやすいという特徴があります。さらに春は入園や入学など、大きく環境が変わる時期でもありますので、しばしば強い精神的ストレスがかかります。
  こういった2つの悪影響が重なるとチック症の症状も悪化しやすい環境が出来上がってしまいます。こんな時こそ、周りの人間はリラックスできる環境作りが重要になるでしょう。


おわりに

 チック症は自然に消失することが多い一方で、しばしば慢性に推移することがある病気です。かわいいお子さんをお持ちのご両親にとってはとても辛いことであることは間違いありません。
 当薬局で漢方薬の服用によりチック症が改善した方が多くいらっしゃいます。
 漢方薬は原因療法です、対象療法の西洋薬のような急激な効果は期待できませんが、身体にやさしく働きかけ、そのバランスを整え体質改善されます、長期的な服用に関しては全く問題ありません。さらに西洋医学的な治療と併用することも可能です。
 チック症の漢方薬による治療に関するご疑問やご質問がございましたら、お気軽に一二三堂薬局を訪ねていただければと思います。

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