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漢方薬と聖書


 クリスマスの季節になりますと、乳香(ニュウコウ)、没薬(モツヤク)の問い合せがよくあります。

 聖書の文中にイエス誕生の御祝として、東方の占星術の学者より黄金、乳香、没薬が送られた話しは、多くの人が知っていますし、中国の漢方薬に乳香、没薬の入っている処方がありますので、文末でこれらについての私的な見解を述べさせていただきます。

乳香は

別名、薫陸香(くんろくこう)、オリバナムともいわれ、紅海沿岸、アラビア半島からトルコに多く産し、カンラン科乳香樹と同属植物の樹皮に傷をつけて採集した樹液が凝固したもので、春及び夏に収集する。

色は黄白色でソマリア産が上質とされている。

主成分はボスウェリイック酸、オリバノレセンなどピネンを主成分とする精油で、薬味は辛・苦、薬性は温で薬理作用は散血、止血、舒筋で、没薬との併用による相乗効果があり、うっ血を改善し止血、筋肉の鎮痛、抗菌、縫合作用、生理不順及び生理痛を改善する働きがあります。

臨床応用として外科、整形外科の常用薬として多く用いられ、没薬と併用する事が多いようです。

「没薬丸」は打撲、捻挫、外傷後の内外出血による腰痛及び止血に内服、外用にも用いる。

「四妙勇安湯」は乳香、没薬を加え血液の循環障害による手足の痛み及び血栓性静脈炎や狭心症痛、腹部のうっ血痛に用いられる。

「小活絡丸」は筋肉の攣縮、拘攣痛、しびれ運動制限及び脳血管障害に用いられる。

「醒消丸」は初期化膿症時の腫痛に用いる。

「海浮散」は外用として、外傷感染潰瘍症の癒合に用いる。

など、いずれも乳香、没薬を含む代表的処方であるが、薬用として中国漢方では使用されているが、日本ではほとんど用いていない。かつては宗教上の薫香料として使用されたが、今日では専ら香料の原料として用いている。


没薬は

別名、ミルラともいわれ、アラビア半島、エチオピア、ソマリアにかけて産する。

カンラン科没薬樹と同属植物の樹皮に傷をつけて採集した樹液が凝固したもので、色は黒色である。

古代エジプトでは死体を保存するため内臓を取り除き、没薬を防腐の目的で詰め込み、乾燥してミイラを作った。ミイラはミルラを語源とする。

主成分はコミフォリックス酸、コミフォリニクス酸などで、薬味は苦、薬性は平、薬理作用は活血袪瘀止痛で、血流を活発にして打撲などうっ血を取り去り痛みを和らげる。

外用として収斂、消炎、殺菌作用があるので、「没薬チンキ」として口腔炎、歯根炎に使用される。また多種の真菌(カビ)及び結核菌に対して抑制作用があり、臨床応用としては乳香に類似して両者の併用により相乗効果が期待できる。他に分泌物抑制作用があり、慢性気管支カタルに用い、また血中コレステロール量を低下させ、体重を減少させる働きもある。乳香、没薬とも妊婦や生理過多の人には使用しないほうがよい。

用途は健胃、通経、強壮薬として用いられていたが、現在日本では内服薬としては使われていない。 収斂薬として外用のハミガキ、うがい薬に用いられていたが、現在ではほとんどが香料原料として使用されている。


乳香(OLIBANUM) 没薬(MYRRHA)


〜乳香、没薬についての私的見解〜

 西アジア原産の乳香、没薬がシルクロードを経て中国に伝わり、それが漢方薬の処方に組み込まれていったと推定される。薬草の効能効果を理論的に説明した中国の名著『本草網目』(明代1578年、李時珍著)に収載されている1871種の中にいずれも記載されている。乳香と没薬が中国の漢方処方に出現するのは10世紀頃で、それ以後も乳香と没薬が併用の形で現在に至っている。聖書にも乳香と没薬が対で記されているのはいったい何を意味するのだろうか。
 日本においては、キリスト教弾圧以降日本独自の処方集が多く発行されたにもかかわらず、乳香、没薬の入っている処方は見いだせない。当時西アジアや中国からかなりの量の乳香、没薬が日本に輸出されており、家伝薬としては内容処方の秘密が保たれていましたのでかなり出回っていました。当然当時の漢方医は薬効について知っていたはずです。これは漢方処方集は世間に広められるのでキリスト教弾圧を考えている為政者の目に止まり、おとがめを受けるのであえて記録を残さなかったとも思われます。
 人類を救うために地上に来られたイエスの誕生への贈り物として乳香、没薬が選ばれたのは単に高価であるという事だけでなく、誕生以降のイエスの生涯に於いて死をも含めた肉体的苦痛が予見されていたからなのではないかとも思われます。
 昔から黄金はこの世の宝であり、イエスもある意味で同様である。そして、またイエスは十字架にかけられる時、兵士がさし出した没薬を混ぜたぶどう酒をお受けにならなかった。それを服用すれば痛みは和らぐのをあえて拒否し、自ら苦痛を受けられたのではないだろうか。

引用文献
 『漢薬の臨床応用』 神戸中医学研究会
 『原色和漢薬図鑑』 難波恒雄著

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