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炎症性腸疾患について
大腸、小腸の粘膜に慢性の炎症や潰瘍を引き起こす原因不明の疾患の総称として「炎症性腸疾患」が存在します。「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」はともにこの炎症性腸疾患に含まれます。
潰瘍性大腸炎とクローン病の両炎症性腸疾患は先進国に多く発生するという特徴があります。さらに日本よりも北米や欧州の方が数倍から十数倍も発生しやすいと報告されています。
この背景から、動物性たんぱく質や脂肪の大量摂取が発症の原因の一つではないかとも指摘されていますが、詳しい原因は不明です。
好発年齢は両炎症性腸疾患ともに若年層に多く、20代に多く発症します。この特徴はクローン病ではより顕著であり、一方の潰瘍性大腸炎の発症年齢のピークは20代ですが、より幅広い世代(中年期以降など)でも発症することも多くあります。
潰瘍性大腸炎について
日本の潰瘍性大腸炎の患者数は増加傾向にあり、その患者数は約10万人以上といわれています。さらに米国は100万人以上ともいわれています。
潰瘍性大腸炎は一般的な疾患ではありませんでしたが、安部晋三前首相が潰瘍性大腸炎を患っていたことを告白し、注目されました。
潰瘍性大腸炎の症状は大腸粘膜の炎症と潰瘍の形成です。この潰瘍が連続的(潰瘍が繋がった状態)に大腸に発生するのが潰瘍性大腸炎の特徴とされています。
潰瘍は発症した場所から上(つまり口の方向)へ広がってゆく傾向があり、最大で直腸から結腸全体に広がることもあります。
主症状としては腹痛、下痢、粘血便(粘膜の残骸と血が混じった状態の便)が挙げられます。これらの主症状は回復と悪化を繰り返し慢性に推移する傾向があります。それ以外にも食欲不振、発熱、貧血、体重の低下などの二次的な症状もしばしば見られます。
潰瘍性大腸炎の最初の症状は多くの場合、便の軟化であり、血便を伴うものに移行してゆきます。その後、腹痛や下痢、排便回数の増加と続きます。症状が悪化すると上記のような二次的な全身症状が起こります。
病因は不明ですが
細菌、ウイルス、免疫異常、過労、自律神経障害、食事との関連があるのではないかと推察されています。
※潰瘍が大腸全体に広がってしまった患者は一般のヒトと比較して大腸癌の発症確率が高くなるとされています。
※女性は妊娠により悪化する事があります。
日常生活での注意
| ◎ |
食事は香辛料などの刺激物、アルコール、炭酸飲料、牛乳、繊維質の多い野菜や果物、脂肪の摂りすぎは腸に負担をかけますので控えめにする。 |
| ◎ |
過労、ストレスは症状を悪化させます。 |
クローン病について
クローン病の「クローン」とはアメリカ人内科医のクローン医師によって当時、限局性回腸炎と報告されたことに由来します。後に回腸だけではなく消化管全体にも炎症が起こることが分かり、現在のクローン病に改名されました。しばしば、カタカナ表記の関係上でバイオテクノロジーにおいて用いられるクローン技術と混同されますが、まったく関係はありません。
日本のクローン病の患者数は2万人〜3万人といわれています。潰瘍性大腸炎ほどの勢いではありませんが、同様に増加傾向を示しています。
クローン病と潰瘍性大腸炎の違いに潰瘍の生じる部位の違いが挙げられます。潰瘍性大腸炎は名の通り、大腸に炎症と潰瘍が形成されました。しかし、クローン病の場合は口腔から肛門までの消化管全体に発症する可能性があります。その中でもクローン医師が最初に報告したように、回腸(小腸の末端部)に起こりやすいとされています。
さらに潰瘍性大腸炎は連続的に炎症と潰瘍が生じるのに対して、クローン病は不連続的、つまり炎症と潰瘍がある部分と無い部分が「飛び石」状に存在する特徴があります。
主症状としては腹痛、下痢、下血が挙げられます。その他にも発熱、全身倦怠感、貧血などの症状も現れます。ここまでは潰瘍性大腸炎と共通する部分が多かったですが、クローン病に特徴的な症状もあります。
クローン病は症状が進行すると腸管が狭くなる狭窄(きょうさく)や腸管に穴ができてしまう穿孔(せんこう)、腸管と腸管同士、または腸管と内臓との間をバイパスする穴ができてしまう廔孔(ろうこう)、穿孔や廔孔によって膿が溜まってしまう膿瘍(のうよう)などを形成してしまいます。
上記の通り、クローン病は消化管全体に炎症や潰瘍が現れるので、口内炎や痔ろうなども併発することがあります。この消化管内の炎症や潰瘍はどこに発生するかは個人差がとても大きく、それに伴って症状の深刻度も個人差が大きいといわれています。
さらに胆石、尿路結石、関節炎、皮膚炎、眼部炎症など、消化管と関係が無い部位にまで症状が拡散することも報告されています。
上記の通り、クローン病は全身性の炎症症状を呈することからベーチェット病(主に眼部、口腔、陰部、皮膚の炎症を主症状とする疾患。関節や消化管にも炎症が見られることもある)と似た病態を示すことが知られています。
食生活での注意
| ◎ |
胃腸に負担をかけないような温かく消化の良い食事をゆっくり時間をかけて食するようにする。 |
| ◎ |
脂肪、たんぱく質、繊維類の多く含まれる食品は控えめにする。 |
| ◎ |
コーヒー、アルコール、香辛料や刺激の強い嗜好品をひかえる。 |
| ◎ |
レバー、卵、ベニバナ油、菜種油に多く含まれるアラキドン酸やリノール酸は症状を悪化させる説があるので控える。 |
| ◎ |
IPA(イコサペンタン酸)を多く含むイワシ、サバ、ハマチや DHA(ドコサヘキサエン酸)を多く含むブリ、タイ、マグロなどは炎症を抑えるので適度に食するとよい。 |
※欧米人に多く、アジア人に少ない病気であったが、近年日本では食の欧米化が進み増加しています。
潰瘍性大腸炎とクローン病の病因
現在、両炎症性腸疾患の根本的な原因は分かっていません。遺伝的な要因、自己免疫疾患、環境要因、細菌やウイルスによる感染症、消化管の限局的な血行不良など、多くの仮説が存在しますが決定的に証明されているものはありません。単一ではなく、これらの要因が絡み合って発症する可能性も指摘されています。
しかしながら、炎症性腸疾患患者の近親者に同疾患の患者が多いという報告もあり、何らかの遺伝子の関与が疑われています。
潰瘍性大腸炎とクローン病の西洋医学的治療
潰瘍性大腸炎もクローン病も発症の原因が不明なため、根本的な西洋薬の治療薬はありません。
原則的には対症療法薬による内科的治療を行います。症状が深刻化し腸に穿孔(せんこう)などが起こった場合は手術による治療が行われます。
内科的治療の主な目的は発生している炎症を沈静化させる対症療法になります。
軽症から中等度の炎症性腸疾患には
サラゾスルファピリジン(商品名:サラゾピリン)やメサラジン(商品名:ペンタサ)が多くの場合に用いられます。
中等度から重症の場合には
さらに高い抗炎症作用を有するプレドニゾロン(商品名:プレドニン)などの副腎皮質ステロイド剤も用いられます。
これら以外には
シクロスポリン(商品名:サンディミュン)などの免疫抑制剤も上記の薬剤が無効な場合は用いられることもあるようです。
近年、クローン病において免疫担当細胞からインターロイキンやインターフェロンなどの炎症反応を助長する物質が過剰分泌されていることが分かってきました。これを受けてインターロイキン、インターフェロンを無効化する抗体製剤の開発が進められています。
これら内科的治療でも改善が見られない、重度の腸管の狭窄や穿孔が見られた場合は手術の適用となります。
以前は消化管の広い部分に渡って摘出手術が行われていましたが、現在は患者のQOL(クオリティ オブ ライフ:「生活の質」の意味)尊重の面から肛門を含む、腸管を可能な限り温存する手術が主流となっています。
潰瘍性大腸炎とクローン病の漢方医学的治療
難治な病気ではありますが、気長に漢方薬を服用する事により体質改善されるケースが多いです。
漢方薬は西洋医学とは異なり病気の原因よりも体質や症状に注目し、患者さんの個別の症状に対して処方することになります。これは炎症性腸疾患に限らず、一貫した漢方医学的な治療方針となります。
炎症性腸疾患の代表的な症状には腹痛、下痢、血便が挙げられます。これらの症状も患者ごとに頻度や深刻度も異なることから、詳しい問診を経て漢方薬を処方します。
腹痛が酷い場合は
腸管筋肉の緊張と弛緩のバランスを調節する。
カンゾウ、シャクヤク、キジツなどを含む漢方薬が使用されます。
腹痛が冷えると悪化する場合は
脾胃(漢方用語。広い意味で消化管全般を指し示す)を温める。
カンキョウ、ショウキョウ、ゴシュユ、ブシ、ニンジンも用いられます。ニンジン、ショウキョウ、カンゾウなどには食欲増進作用もあり、食欲不振解消と体力回復にも有効です。
下痢が酷い場合は
水毒症状(漢方用語。水分バランスの不均衡によって起こる症状。下痢、むくみ、めまいなど多彩な症状が存在する)の改善を重要視します。
つまり腸管に存在する過剰な水分を便(つまりは下痢便)ではなく尿として処理することを目指します。そのためにはブクリョウ、ソウジュツ、ビャクジュツ、セッコウ、カッセキ、タクシャ、などの利水作用を有する生薬が用いられます。さらにブクリョウやビャクジュツはニンジンやショウキョウと同様に食欲増進作用があり、セッコウやカッセキは過剰な熱を収める作用もあります。
下血が酷い場合は
ジオウ、トウキなどの血を補う生薬と、アキョウ、ガイヨウなどの止血作用を有する生薬が併用されている漢方薬が用いられます。
これらの生薬は下血を軽減するだけではなく、その作用によって貧血も軽減することが出来ます。しかし、ジオウ、トウキなどはやや消化管に負担をかける傾向があるので、使用する際はニンジン、ショウキョウ、タイソウなどの脾胃にやさしい生薬との共存が望ましいです。
その他には
興奮しやすい、のぼせやすい、イライラしやすい、高血圧、赤ら顔、そして炎症性腸疾患にしばしば見られる発熱などの熱性の症状があれば、オウレン、オウゴン、オウバク、サンシシ、サイコなどの抗炎症作用を有する生薬が有効であり、腹痛軽減に役立ちます。
漢方薬は上記の通り腹痛、下痢、下血以外の発熱、食欲不振、全身倦怠感、貧血などの症状に対しても有効です。それ以外にも炎症性腸疾患由来の不安感、焦燥感を鎮める生薬を併用して心身の健康増進を図ることも重要です。
これら漢方薬は西洋薬との併用も可能であり、双方の力をあわせて患者のQOL改善を図るのも有効です。
さらにステロイドによるムーンフェイス、手足のむくみに代表される西洋薬特有のつらい副作用を軽減するために漢方薬を用いることも可能です。
潰瘍性大腸炎もクローン病も完治が難しい難病であるので、建設的に症状を緩和し、病気と上手く付き合える身体作りを漢方薬は促進します。さらに漢方薬の持つ体質改善作用によって症状が安定している状態(緩解状態)を長く維持することも期待できます。
漢方薬も患者さんの体質に合わない薬を服用すると効果が期待出来ないばかりか、副作用がでる場合もあります。
自己判断で処方を決めないで、多くの経験を積み研究している専門の薬剤師に時間をかけて相談のうえ、症状に合った漢方薬を選び服用なさるのが望ましいです。
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