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ドライアイ・ドライマウスと漢方薬

ドライアイ・ドライマウスとは

 ドライアイとはその名の通り、目の乾燥を指しています。そしてドライマウスとは口腔の乾燥を指します。ドライアイはしばしば乾性角結膜炎とも呼ばれますが、一般的にはドライアイという名前が浸透しています。しかしながら、ドライアイは厳密に言えばただ単に乾燥感を覚えるだけではなく、診断を確定させるためにはいくつかの基準(ドライアイならば涙の量を測定する試験や特殊な抗体の検出など)が存在します。しかしここでは広義として目の乾燥と口腔の乾燥がある状態として扱ってゆきます。
 ドライアイの症状としては涙が出ない、目が疲れやすい、目が痛い、目が痒い、スムースに目が動かしにくい、目やにがたまりやすい、過度にまぶしいなどの症状が代表的です。眼球を覆う涙が不足することでその表面が傷つきやすくなることもあります。このような症状はディスプレイや書類を読み込むときに非常に負担となるために仕事上での大きなストレスにもなりえます。
 ドライマウスの症状としては口が渇く、唾液が出にくい、水分を欲する、口の中が苦い、長時間の会話が困難、味覚が鈍くなるなどの症状が代表的です。口腔内を潤う唾液が不足していることから虫歯が出来やすくなり、口内炎が多発するなどの症状も起こりえます。それ以外にもドライマウスの症状を軽減するために水分を多く飲むので夜間尿や多尿に悩まされることもあります。

 ドライアイとドライマウスからは少々脱線しますが、目や口以外に鼻の中や気道、さらには膣にまで乾燥性の病態が及ぶことも知られています。鼻の乾燥の場合は鼻の中が傷つきやすくなり鼻血が出やすい、鼻からゴミが入りやすい、空咳が出る、などの症状が起こります。気道が乾燥すると慢性気管支炎や声が枯れたり感染症に罹りやすくなります。膣の乾燥は性交不快感や性交困難に繋がります。
 これらドライアイやドライマウスに代表される乾燥性の症状が現れている方の一部はシェーグレン症候群の可能性があります。下記で紹介するシェーングレン症候群では「顔全体だけではなく全身が乾燥した状態になる」というのが最もイメージしやすい病態といえるかもしれません。シェーングレン症候群患者数は約10万人と言われており、ドライアイやドライマウスの症状だけを対象とすると100万人以上とも約1000万人とも言われています。


シェーグレン症候群とは

 スウェーデンの眼科医であるシェーグレンが1930年代に報告したことにちなんで「シェーグレン症候群」という名前が付けられました。日本では1970年代後半から徐々に知られるようになったようです。しばしばシェーングレン症候群という表記も見受けられますがシェーグレン症候群が一般的です。
 シェーグレン症候群を患っている方々の正確な人数の把握は難しいですが、国内では約10万人以上であり、圧倒的に女性が多いという特徴があります。年齢的には50代が多いとされていますが、小児から高齢者まで幅広く発症することもまた知られています。
 シェーグレン症候群は代表的な自己免疫疾患の一つです。自己免疫疾患とは本来は外敵に対して攻撃を行うべき免疫系が何らかの理由(多くの場合は不明な場合が多いです) によって自分自身を攻撃してしまう疾患です。シェーグレン症候群もまた、根本的な原因は不明であり、涙腺と唾液腺に対して免疫系が攻撃を行うことによって多彩な症状が現れます。
 涙の分泌を行う涙腺と唾液の分泌を行う唾液腺が攻撃を受けて、機能しなくなることによって後述するドライアイやドライマウスなどの症状が現れるのがシェーグレン症候群の最大の特徴です。本ホームページでもこれらドライアイとドライマウスを中心に紹介してゆきます。
 上記の通り、シェーグレン症候群は自己免疫疾患であり、ドライアイやドライマウスなどのシェーングレン症候群特有の症状のみが現れる原発性シェーグレン症候群と、他の自己免疫疾患、例えば全身性エリテマトーデスや関節リウマチ(リューマチ)などと一緒に発症する二次性シェーングレン症候群の2種類に大別されます。


西洋医学的治療法と治療薬

 シェーグレン症候群(ドライアイやドライマウス)は対処が困難な自己免疫疾患の一種であること、さらに明確な原因が不明ということもあって根本的な治療法は確立されていません。したがって、乾燥した状態に潤いを与えてゆく、乾燥による不快感を解消するという対処療法が基本戦術となります。
 ドライアイの場合は保湿作用が認められているヒアルロン酸が含まれた目薬が最も頻繁に用いられます。それ以外にも目の機能維持と保湿効果が認められるビタミンAの点眼薬も用いられます。さらに自己血清を薄めて人工涙液として用いるという治療法も徐々に広がっています。
 ドライマウスに対しては粘液分泌を促進するブロムヘキシンやアネトールトリチオンが用いられます。さらにメチルセルロースを含んだ人口唾液も症状の緩和に用いられます。ドライマウスは症状の緩和のほかに、唾液が不足することで虫歯や歯周病が発生しやすくなるので、イソジンガーグルなどで殺菌を心掛けることも重要となってきます。


漢方薬による治療

 漢方薬による治療において中心となるのは「肝(かん)」と「腎(じん)」です。ここで言う肝や腎は西洋医学的(生理学的)な肝臓や腎臓を指しているわけではありません。漢方医学的に肝は気の巡りを円滑にする、血を蓄える、筋肉や目の機能を調節するといった働きがあります。腎は生命の力の源であり生命活動を維持するための基本的な物質である精(せい)を蓄え、水分代謝を調節し、成長を司ります。
 シェーングレン症候群によるドライアイやドライマウスには漢方医学的にも多くの原因が考えられます。したがって用いられる漢方薬の種類も多岐にわたります。しかしながら、現代人のドライアイやドライマウスの原因としては肝に蓄えられているはずの肝血(かんけつ)の不足と腎に蓄えられているはずの精の不足が考えられます。

 肝血の主な働きは全身の臓器に栄養を与え、身体を潤いで満たすことです。肝血が不足すると肝をはじめとする臓器の機能が低下し、全身が乾燥傾向となります。肝の働きには上記で紹介した通り、目の機能維持があり、それが失調すると目のかすみ、めまい感、目の疲労、目の痛み、過度なまぶしさ、そして目の乾燥、つまりドライアイが起こります。さらに肝血は全身を潤す作用もあるので肝血の不足はドライアイをさらに進行させ、さらにドライマウスや皮膚、気道などの乾燥を引き起こします。
 ちなみにこの肝血が不足した状態が続くと上記以外の症状として憂鬱感、緊張感、不安感、不眠、イライラ感などの精神症状、喉や胸の閉塞感や不快感、吐き気、筋肉の緊張や痙攣などのチック症状、月経異常、性機能障害(ED)、高血圧などの身体症状も現れます。このような症状がドライアイやドライマウスと並存しているようならば肝血を補う補血を中心とした漢方薬を用いることになります。具体的には地黄(じおう)、芍薬(しゃくやく)、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、竜眼肉(りゅうがんにく)、阿膠(あきょう)などを含んだ漢方薬が繁用されます。

 腎に蓄えられている精は上記の通り生命活動を維持するための基本的な物質であり、血・津液(しんえき)・気に姿を変えて分化してゆきます。血は肝血で説明したものと同じものです。津液は潤いの源と考えてください。気は生理機能や代謝の維持し、身体を暖め、病邪の進入を防御するなど、やはり多彩な働きをしています。この中で血と津液はまとめて陰液(いんえき)と呼んだりもします。この精が不足すると最終的には気・血・津液のすべてが不足することになります。そして身体を潤す作用がある血と津液の両方が不足することによって全身的に乾燥した状態となってしまいます。血の不足は結果的には肝血の不足に結び付き、上記の流れでドライアイが進行してしまいます。
 精の不足において陰液が特に不足した状態を腎陰虚(じんいんきょ)と呼び、腎陰虚ではドライアイやドライマウスなどの乾燥症状の他に身体の熱感・ほてり、のぼせ、イライラ感、発汗多過などの熱性の症状が現れます。もしこれらの症状が並存しているようならば精を補う補腎を中心とした漢方薬を用いることになります。具体的には地黄(じおう)、山薬(さんやく)、山茱萸(さんしゅゆ)などを含んだ漢方薬が繁用されます。

 では肝血や精の不足はどのようにして起こるのか。これも十人十色であり、なかなか断定することは難しいです。しかしながら、肝は精神的なストレスに弱い臓器であり、精神的ストレス下に長時間晒されると徐々に肝血を失うことになります。したがって、ドライアイやドライマウスの症状が現れた場合、精神的ストレスが過度に加えられていると考えて積極的にリラックスすることは非常に重要です。
 精の不足は多くの場合、加齢とともに起こります。つまりは精が不足することと老化はほぼ同義と考えて問題はありません。腎に蓄えられている精を徐々に消費し、私達は老いてゆくのです。しかし、若くして精が不足するのはやはり異常です。精は腎に蓄えられているほかに食物の摂取からも得ています。したがって、もし精が不足していると疑われる症状が多く出ている場合はバランスの取れた食事を積極的に摂ることが大切になります。

 用いられる漢方薬は上記のもの以外にも多く有ります。潤いをもたらす麦門冬(ばくもんどう)、天門冬(てんもんどう)、五味子(ごみし)。精神を安定させる柴胡(さいこ)、酸棗仁(さんそうにん)、遠志(おんじ)。目の機能を向上させる菊花(きくか)、枸杞子(くこし)などの生薬を含む漢方薬も用いられます。

 このように漢方薬によるドライアイやドライマウスなどの乾燥性症状を中心に紹介しましたが、シェーグレン症候群の場合は関節リウマチなどに代表される他の自己免疫疾患も合わせて発症している方も多くいらっしゃいます。
 西洋医学においては漢方医学で用いられる陰虚(いんきょ)の状態、つまり「身体に潤いが不足している状態」という概念は存在しません。漢方薬による治療は身体の乾燥の原因を突き止め、根本的に改善してゆく所に大きな強みがあります。
 池袋・一二三堂薬局ではその辺りも踏まえて皆様の症状を全体的に伺い、最も適していると考えられる漢方薬を提供しています。西洋医学的に改善が見られなかった方も多く来店して頂いております。是非、お困りの際はご来店ください。


日常生活での注意

 重複になりますがドライアイ、ドライマウス、そしてシェーングレン症候群はその原因がまだ不明なため、日常生活を変えることで予防したり完治させることは困難です。しかしながら、いくつかの注意を払いながら生活することで不快な症状を軽減したり、シェーングレン症候群を原因とする二次的な疾患を予防することは可能です。本節でもドライアイとドライマウスを中心にその日常生活での注意点をまとめてゆきます。

 まずはドライマウスの注意点から。まばたきの回数が減少しやすいディスプレイの長時間の凝視は眼球表面の水分を喪失させてしまいます。定期的に休憩を取り、まばたきすることを心掛けることが重要です。さらにディスプレイを目の位置より下側に配置することで目を大きく見開くことを防止できます。
 周辺環境を変化させることも重要です。ただでさえ身体が乾燥しているのに室内が乾燥していてはより症状を悪化させます。加湿器を配置する、蒸しタオルを置いておく、水を入れたコップを置いておくだけでも過剰な乾燥を防止できます。メガネのフチに濡れたティッシュを掛けるという「裏技」も有効です。
 加湿以外にも留意点はあります。過剰に照明が明るく目が疲れやすい、タバコの煙やホコリが舞っている、エアコンや送風機が近くにあるような状況も症状を悪化させます。定期的に目薬を用いることも有効ですが、保存料が入っている目薬を頻繁に用いると眼の表面を傷つけることもあるので注意が必要です。ドライアイ専用のヒアルロン酸含有の目薬がしばしば小さい容量しかないのはこの保存料を使用していない(使用できない)ためでもあります。

 ドライマウスの場合、唾液分泌を促進するアメやガム、甘いものが苦手な方は梅干や昆布なども有効です。注意点としては唾液が不足すると虫歯が発生しやすいのでシュガーレスのものを用いることが大切です。ドライマウスで重要になるのはこの虫歯対策です。定期的な歯石の除去、歯周病のチェック、丹念なブラッシング、ブラッシングの後にイソジンガーグルやセチルピリジニウムなど殺菌成分を含んだが嗽(うがい)薬を用いるのも有効です。

 ドライアイの方が積極的に摂りたい栄養素としてはビタミンA(β−カロテンまたはカロチン)、アントシアニン、ω(オメガ)−3系脂肪酸です。ビタミンAは主にほうれん草、春菊、こまつな、人参、鶏のレバー、豚肉、ヤツメウナギなどが豊富に含んでいます。しかしながら、妊娠初期の妊婦はビタミンAを大量に摂取することは好ましくないので注意が必要です。ちなみにビタミンAの前駆体であるβ−カロテンの形ならば妊婦でも安心して摂取可能です。ω−3系脂肪酸は脂が豊富な魚、アントシアニンはブルーベリーやラズベリーなどに豊富に含まれています。これらを上手く食事やおやつとして用いることでドライアイの症状緩和が期待できます。漢方薬治療の節でも触れましたがバランスの取れた食事はドライアイやドライマウスに限らずとても大切です。その中で紹介したような食品を積極的に摂ることを心掛けてみてください。
 その他にも身体を積極的に動かし、リラックスを意識的に行うことも健康には不可欠です。エレベーターやエスカレーターを控えて階段を使う、ウォーキングを行うなどは無理なく行える健康法です。

 これら紹介させて頂きました注意点を守りながら漢方薬による治療を行うことがドライアイ・ドライマウスなど乾燥性の症状を取り除く近道になります。なかなかすべてを遵守することは難しいですが、ひとつひとつ、出来ることから行っていくことが大切です。

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